オープンデータ×生成AIで、観光の意思決定を“週次”へ - 実証事業で見えた「プッシュ型・観光速報共有基盤」の実装効果(福井県)

オープンデータ×生成AIで、観光の意思決定を“週次”へ - 実証事業で見えた「プッシュ型・観光速報共有基盤」の実装効果(福井県)
Photo by Ryoji Iwata / Unsplash

観光地の経営判断は、いま“勘”から“データ”へと急速に移行しています。とはいえ、現場には「データを見たいが時間がない」「分析の手順がわからない」「読み解いても次の一手につながらない」という壁が残っていました。 

合同会社basicmathは、福井県観光DXコンソーシアムの取り組みの一環として、自社が開発・提供する生成AI基盤「mitsumonoAI」を活用した「mitsumonoAI Analytics & Reporting Extension」を導入し、「オープンデータ×生成AI×情報発信プラットフォームを活用したプッシュ型・観光速報共有基盤」の実証を行いました。

※本実証事業は観光庁の令和7年度「観光DX推進による地域活性化モデル実証事業」に採択され、生成AI活用モデルの創出に取り組むものです 。

本記事では、自社サービスである mitsumonoAI Analytics & Reporting Extension を活用した本実証の取り組みを通じて、現場の業務や意思決定プロセスがどのように変化したのかについて、実証で得られた成果、ユーザーフィードバック、事例インタビューを交えて紹介します。

mitsumonoAI - Analytics & Reporting Extension
企業内外に散在するデータを統合し、全社員が直感的に動ける「知恵」に変える。

1. 背景:データはあるのに、使い切れない——観光現場の“ワストワンマイル”

福井県では、宿泊予約動向やアンケート等、意思決定に資するデータが蓄積されてきました。一方で、現場で実際に活用するには次の課題が立ちはだかります。

•  分析のための時間が取れない(兼務が前提、繁忙が優先)

•  操作リテラシーの差(ダッシュボードは“触れる人”が限られる)

•  分析→施策への翻訳が難しい(数値が次の打ち手に変換されない)

私たちは、こうしたデータ活用のハードルを「伴走支援による知識共有」によって乗り越えることを目指し、2022年度および2023年度に、データ収集・活用に関する実証事業や伴走支援を実施してきました。

「観光データ連携機能構築による観光事業者の収益向上に向けた実証事業」事業レポート
観光DXの先進事例創出を目指す取り組みが進む中、合同会社basicmathは、観光庁主宰の実証事業に福井県観光DX推進マーケティングデータコンソーシアムの一員として参加しました。「デジタルとアナログの融合で、旅を、地域を、あたらしく」を掲げ、旅行者の利便性向上や観光地経営の高度化を目指すこのプロジェクトにおいて、当社は観光データの収集・分析を通じて「データの見える化」に貢献しています。この記事では、このプロジェクトの概要をご紹介いたします。
2023年度観光庁主宰「事業者間・地域間におけるデータ連携等を通じた観光・地域経済活性化実証事業」
2023年度の実証事業では、観光データの活用と「稼ぐ観光」を目指し、福井県内の観光事業者を対象にデジタルマーケティング人材の育成やデータ分析を実施しました。本記事では、その取り組みと成果をご紹介します。

しかし、上述した課題の壁は依然として高く、データ活用が十分に広がっていないという現実も明らかになりました。

そのような状況の中で、生成AIが著しく進化し、「読むだけで状況を把握でき、すぐに意思決定に活用できる」レベルにまで技術が到達しました。

私たちは、この生成AIの力を活用し、現場で真に使われる仕組みそのものを導入することに可能性を見出しました。

2. 解決策:プッシュ型の観光速報共有基盤

—“見に行く分析”から、“届く分析”へ

今回の実証事業の中核となったのは、FTAS等のオープンデータをもとに、AIが定型的な分析レポートを自動生成し、プッシュ配信する仕組みです。

本仕組みは「FTAS-AI分析レポートサイト」として公開しました 

現場では、ダッシュボードを操作する必要はありません。メール等で定期的に届くレポートを読むだけで、最新の観光動向やその変化を把握することができます。

私たちはこの取り組みを mitsumonoAI Analytics & Reporting Extension として提供しています。

分析・レポート作成・共有までを、日常業務の流れの中にそのまま組み込める点が大きな特徴です。

3. 成果:レポート作成が「約2時間→約5分」へ。共有頻度は月次から週次へ

 
あわら温泉エリアでは、FTASのCSVをダウンロードし、手作業で加工してレポートを作成していました。

そのため、レポート作成1回あたり約2時間を要し、共有頻度も月1回程度にとどまっていました。

実証導入後は、AIが分析レポートを自動生成し、作業時間は約5分へ短縮

結果として、週次での情報共有が現実的になり、経営判断に直結する情報を“定期的に”回せる状態へと移行しました。

ポイントは「速さ」だけではありません。

週次で回ることで、価格調整や販促のタイミングなど、意思決定の粒度が上がります。

4. ユーザーフィードバック

 —「使えるか?」ではなく「使われたか?」で見る評価

 本実証では、FTAS-AI分析レポートを実際に利用したユーザーを対象にアンケート調査を実施しました。

回答者には、観光事業者、観光協会、DMO、自治体職員、民間企業の経営層・担当者など、観光地経営における意思決定と実務の双方を担う立場が含まれています。

4-1. 回答者プロフィール

—誰がこの仕組みを評価したのか

所属組織(上位)

•  民間企業(その他):32.1%

•  観光関連事業者:21.4%

•  観光協会:17.9%

•  DMO:10.7%

•  市区町・町関係:10.7%

 

職種(上位)

•  経営者・管理職:35.7%(最多)

•  観光業界・地域戦略担当:21.4%

•  事業・政策・管理担当:14.3%
 

→ 意思決定層と現場担当の双方が回答しており、

単なる「ツールの使いやすさ」ではなく、

経営・施策判断の視点からの評価が含まれている点が本調査の特徴です。

4-2. 総合評価と主な評価ポイント

総合満足度:7.00点(10点満点)

7点以上の評価が 78.0% を占めました。

 この結果は、「一部の分析担当者にとって便利」ではなく、多様な立場の利用者にとって“実務に耐える水準”に達していることを示しています。

 

使いやすさ

•  75.0% が「使いやすい」と回答

経営層・管理職が多く含まれる回答者構成を踏まえると、「操作を覚える」「画面を触る」ことなく、読むだけで状況が把握できる設計が評価されたと考えられます。

AI分析の信頼性

•  64.3% が「高い」と評価

AIによる自動分析でありながら、現場感覚と大きく乖離しない内容であったことが、継続利用につながる前提条件を満たしたといえます。

情報量の妥当性

•  78.6% が「ちょうどよい」と回答

情報が多すぎて読み切れない、あるいは少なすぎて判断できない、という従来の分析レポートにありがちな課題を回避できた点が示唆されます。

 

4-3. 「どう使われたか」から見る実装効果

 本実証で特筆すべき点は、レポートが“確認用”にとどまらず、意思決定プロセスに組み込まれたことです。

 

主な活用方法(複数回答)

•  82.1%:データ確認・把握

→ 日常的な状況把握ツールとして定着

•  46.4%:市場分析・戦略立案

→ 施策検討・価格判断など、判断材料として活用

•  21.4%:社内報告資料への転用

→ 自動生成レポートをそのまま説明資料として活用

特に、経営者・管理職層の回答割合が高いことを踏まえると、「分析結果を誰かに説明する」負担が減った点も、実務上の大きな効果といえます。

4-4. 立場別に見える評価の傾向(考察)

•  経営者・管理職層

→ 操作負荷がなく、短時間で全体像を把握できる点を評価

→ 定例会議・価格判断の材料として利用

•  観光協会・DMO・自治体担当者

→ エリア全体の共通認識形成に有効

→ 関係者間で同じ情報を共有できる点を評価

•  観光事業者・実務担当者

→ 市場動向を把握し、自社施策を検討するための基礎情報として活用

このように、本実証の仕組みは、特定の職種向けツールではなく観光地経営に関わる多様な立場をつなぐ「共通言語」として機能し始めています。

5. 事例:あわら温泉

—「エリア全体を“自分ごと”として見られるようになった」

あわら温泉では、FTASで公開されているエリア全体の宿泊予約データと、自社の実績データを重ね合わせることで、「感覚」ではなく「比較」に基づく意思決定が日常業務に組み込まれつつあります。 

価格調整や販促施策の判断において重要なのは、「数字が良い・悪い」ではなく、それがエリア全体の動きと比べてどうなのかという視点です。

この“相対的な把握”が、週次で可能になったことが、意思決定の質を大きく変えました。

インタビュー 

ホテル八木 代表取締役社長 / 芦原温泉協同組合 マーケティング委員会
八木 司 様

FTAS構築当初からプロジェクトに関わり、あわら温泉協同組合のマーケティング委員会を牽引してきた八木氏に、今回の実証で見えた変化について話を伺いました。

「エリア全体を見ないと、自社の判断はできない」

「FTASの一番の価値は、エリア全体のトレンドを“前提条件”として持てることだと思っています。自社の予約が伸びているときも、それがエリア全体の流れなのか、自社だけの動きなのかで、次に打つ手はまったく変わります」

八木氏は、FTASのデータを自社の宿泊実績と同一期間で比較し、自社が上振れているのか、あるいは下振れているのかを必ず確認したうえで、仮説を立てるといいます。

「エリア全体と比べて下振れていれば、価格なのか、露出なのか、訴求内容なのか、どこに課題があるのかを考えます。逆に上振れていれば、価格を見直す余地があるかもしれない。こうした判断が、データを見ながら自然にできるようになりました」

「分析できるかより、“回り続けるか”が重要だった」

従来、分析作業は大きな負担でした。FTASからCSVをダウンロードし、Excelで加工し、グラフを作成する——1回のレポート作成に約2時間を要し、結果として分析は月1回が限界だったといいます。

「正直、やった方がいいのは分かっていましたが、日々の業務の中で分析に時間を割くのは簡単ではありませんでした」

FTAS-AI分析レポートの導入後、この状況は一変します。

「今は、自動生成されたレポートをダウンロードして送るだけ。作業は5分程度で終わります。その結果、週次での分析レポート共有が現実的になりました」

重要なのは、単なる時間短縮ではありません。

「分析が“特別な作業”ではなく、経営判断のための“当たり前の情報”になったことが一番大きいですね。会議用の資料ではなく、日々の判断のために自然と目を通すものになりました」

 

「地域全体で同じ情報を見る意味」

現在、マーケティング委員会では、自動生成された分析レポートを旅館組合の会員、観光協会、市役所の担当部署などへ配信しています。

「同じデータ、同じ分析結果を、関係者全員が同じタイミングで見る。これによって、議論の前提が揃います。“数字の解釈”から始まる会議ではなく、“次に何をするか”から話が始められるようになりました」

八木氏は、この点にこそ「プッシュ型」の価値があると語ります。

「分析できる人を増やすよりも、判断に必要な情報が自然と届く仕組みを作る方が、地域全体としてはずっと現実的だと思います」

「週次で回る」ことで、意思決定の時間軸が変わった

レポートが週次で回るようになったことで、価格調整や販促施策を“月次の振り返り”ではなく、“進行中の判断”として行えるようになりました。

この変化は、

「データを使えるようになった」ではなく、

「データで判断することが当たり前になった」

という、質的な転換を示しています。

6. 次の改善テーマ:ユーザー要望から見えた進化の方向性

 —「実証で終わらせない」改善サイクルの確立

本実証で得られたフィードバックから、次の改善テーマが明確になりました。

•  出力機能の拡充

PDF・PowerPoint形式でのダウンロード

→ 「そのまま資料として使いたい」という要望を受け、既に一部レポートで導入済

•  ビジュアル強化

インフォグラフィックによる直感的な可視化

→ 分析結果を読み解く負担を下げるため、主要指標の図解化を一部実装済

•  高度分析への対応

複合分析、長期トレンド分析、移動年計など

これらは、単なる機能追加要望ではありません。

「意思決定にどう使いたいか」という具体的な利用シーンから生まれた要望です。

実際、あわら温泉協同組合 マーケティング委員会の八木司氏からも、

「月次の増減ではなく、移動年計で年間推移を見られると、エリア全体の状況をより正確に捉えられ、判断の精度が上がる」

という声が寄せられています。

フィードバックから実装へ——改善スピードも実証成果の一つ

本実証の特徴は、要望を「次年度以降の検討事項」に留めず、実証期間中から改善に着手した点にあります。

•  レポートのファイル出力対応

•  図表・ビジュアル表現の強化

といった項目は、フィードバック取得後、短期間で一部導入されました。

これは、生成AIを活用したレポート基盤であるからこそ、分析ロジックや表現を柔軟にチューニングできるという特性によるものです。

一方で、エリアによるデータ量の差という課題も明らかになりました。特に、データ収集量が限られる地域では、単一データソースのみでは分析精度に限界が生じやすくなります。

今後は、複数のオープンデータや地域データを統合することで、エリア差を吸収しつつ、汎用的に展開できる基盤へと進化させていく事が必要になってくると考えています。

また、配信手段についても、従来のメール配信に加え、LINEやSlackなど、現場で日常的に使われているツールへの拡張を検討しています。

あわせて、運用負荷と提供価値のバランスを踏まえ、福井県観光DXコンソーシアムとしてサービス有料化を含めた持続可能な提供モデルの設計も進めています。

7. まとめ:観光DXの本質は「分析」ではなく「意思決定が回ること」

本実証を通じて明らかになったのは、観光DXの成否を分けるのは、分析の高度さそのものではない、という点です。

重要なのは、

•  データが 読める形 で整理され

•  必要な人に 届く形 で共有され

•  意思決定の中で 回り続ける形 で使われること

この3点が揃って初めて、データは現場の判断を支える“道具”になります。

FTAS × 生成AI × プッシュ型共有基盤という構成は、観光地経営における「ラストワンマイル」を越えるための、現実的かつ再現性のあるアプローチであることが、今回の実証で確認されました。 

月次から週次へ。

「振り返りのデータ」から「進行中の意思決定のデータ」へ。

この時間軸の変化こそが、本実証がもたらした最大の価値であると考えています。

8. 導入・連携のご相談

 —分析を“仕組み”として回したい事業者・観光地・組織の皆さまへ

本記事で紹介してきた「プッシュ型・分析レポート速報共有基盤」 は、特別な分析スキルや専任人材を前提としない、現場で“回り続ける”ことを重視した分析・レポーティングの拡張機能です。

mitsumonoAI Analytics & Reporting Extension は、

•  オープンデータや既存データをもとに

•  AIが定型の分析レポートを自動生成し

•  メール等を通じて関係者へ定期的に配信する

ことで、「分析する人に依存しない」「共有が滞らない」データ活用を実現します。

 

こんな課題をお持ちの方に適しています

•  データはあるが、分析・レポート作成が属人化している

•  ダッシュボードを作っても、見る人が限られてしまう

•  分析結果が、経営判断や施策に十分つながっていない

•  月次・四半期ではなく、もっと短いサイクルで判断したい

本実証で確認できたのは、「高度な分析ツール」を導入することよりも、“読める形で、届く形で、定期的に回る”仕組みをつくることが、観光地経営において現実的かつ効果的であるという点でした。

 

実証から導入へ——柔軟に設計できます

Analytics & Reporting Extension は、

•  分析テーマ・レポート内容のカスタマイズ

•  配信頻度(週次・月次など)の設計

•  エリア単位/組織単位での展開

•  実証から本格導入への段階的移行

といった形で、地域や組織の状況に応じた導入が可能です。

「まずは自分たちのデータで、どこまでできるのか知りたい」

「実証事業やモデル事業として検討したい」

といった段階からのご相談も歓迎しています。

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mitsumonoAIは、複数LLM対応のチャット、AIエージェント、テンプレート化された業務ワークフローなど、実務を加速する生成AIツールです。